揖斐川石-I, Ibigawa Ishi
揖斐川石-I
揖斐川石を紹介します。揖斐川石はその名のとおり、揖斐川から産する水石です。
揖斐川石は、加茂川石、瀬田川石と並び称されることからも、その歴史はかなり古く水石発祥の頃、室町時代まで遡ると考えられています。
揖斐川の名は、平安時代から室町時代にかけて美濃国にあった荘園、揖斐荘(いびのしょう)に由来すると考えられていますが、おそらく揖斐荘から揖斐川石が世に出たのではないかと考えています。
その昔、揖斐川からそれは質の良い真黒石が産し、加茂川石、瀬田川石に負けず劣らずだったようですがそれも枯渇、 昭和の頃には真黒石はほとんどなく、蒼黒石や青石が主流だったようです。
真黒石が取れなくなったため、蒼黒、青石が探石の対象となった訳ですが、 徳山ダムが出来た後は定期的な放水で水位がコントロールされ川が荒れず、 さらに水量も高くなり河原もなくなったため、今では水石はまったく拾えなくなったといいます。
従って揖斐川石の良石が今後新たに産することは考えにくく、入手したい場合はどなたかから譲ってもらうしかありません。
揖斐川石の蒼黒石はその名のとおりですが、硬質な青色の皮目にえぐれて独特のジャグレのある肌目が特徴的で肌目の部分は暗い青~黒色をしています。
一方の青石はその皮目だけのような石ですが、硬いため形が出にくい石のようです。
いずれも石肌に白い筋が入るものはそこからサビが生ずるため倦厭される場合と、 逆にそれが深い味わいだと感ずる方もいらっしゃるので、何とも言えないところです。
揖斐川石の真黒石は数が少なすぎて、正直よく分かりませんが、硬質でジャグレはほどほどのようです。
どなたかが大切に保存されているか、または揖斐川石とは思われず産地不明石として流通していることも多いのではないかと思います。
このほか、揖斐川からは赤石、紫雲石、梅花石、龍眼石など多彩な石が見つかりますが、途中の支流である粕川からの石も揖斐川石とされる場合が多々あります。
このように揖斐川からは多種多様な石が産するため、典型的な揖斐川石というと何だろう?というのがこれまで分からずにいました。 今もその意味では勉強中ですが、蒼黒石や青石が揖斐川独特の石のような気がしています。
一見、佐治川石に似ているようでいて、佐治川石が鉱物的なところあくまで揖斐川石はある種普通の石的であり、またジャグレとも違う一種独特の石肌は一見の価値があると思います。
なお、盆栽の石付けに使われる石灰石を多く含む龍眼石は、揖斐川石ではなく揖斐石と呼ばれます。 やや軟質なので、水石にはあまり向かないようです。
さっそく見ていただきましょう:
揖斐川石 - 蒼黒石
こちらは比較的よく見かける揖斐川石です。
前面真ん中あたりに残る若干青色の平坦な皮目と、それ以外のジャグレた黒い肌目があります。 全体的に硬質ですが特に皮目の個所がより硬質、その部分の肌触りは比較的ツルツルとしてます。
こちらは裏側で肌目だけとなっています。 この独特のゴツゴツしたジャグレとはまた少し違った肌合いが特徴的です。
揖斐川石 - 蒼黒石
こちらも揖斐川石の蒼黒石です。
こちらは皮目の部分が多く、さらにえぐれているところとの対比が面白く、よく自然にこんな形になったものだと思わせる石です。
揖斐川石 - 青石
こちらは揖斐川石の青石と呼ばれるものだと思います。
と言いつつ、揖斐川には粕川も合流しますし、粕川石からは春日七石(かすがなないし)といわれるほど、多種多様な石質が産するので その実、どれが蒼黒石でどれが青石か、さらに粕川石との分類も含めて明確にすることはほぼ不可能なのが実情です。
こちらは少し水に湿らせて撮影していますが、凹んだところが岩洞のようです。
聖者が静寂とした岩屋で心落ち着かせ瞑想を行っている様が思い浮かぶようです。
裏側もえぐれたところがジャグレになっていて、一見ただの石でありながらよく観ると味わい深い肌合いをしていることが分かります。