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加茂川石-I, Kamogawa Ishi

加茂川石-I

加茂川石は、鴨川から産する水石の総称である。

鴨川は通例として高野川との合流点より上流が賀茂川(加茂川)、下流が鴨川と表記される。

水石では、賀茂川(加茂川)、鴨川のいずれから探石されても総じて加茂川石と称されるが、稀に鴨川石という表記も見られる。

加茂川石 - 地図

鴨川には水石の産地として名の知れた貴船川、鞍馬川、そして八瀬真黒で有名な高野川も合流するため、様々な石種が見られるが、真黒石においては下流域の方が石が擦れてまろやかな形状であるとともに、緻密硬質な石の芯が見られることからよいとする見方もあるようだ。

濡れたような石肌は「カラスの濡れ羽色」と証され、その石粉は京の黒楽焼にも利用されるという。

加茂川石は瀬田川石、佐治川石と並び三大水石のひとつとされ、水石文化の要所である京都を流れる河川から産する石でもあることから、ある種水石におけるブランド石のように扱われる。

そのため、ほかの産地の石が加茂川石と称されることが往々にある。 いわゆる産地偽装である。

その昔、北海道の千軒石や馬淵川支流の小滝石などは多くの石が加茂川石と称され市場に出回ったといわれるが、これら以外にも日本全国津々浦々から産する質の良い黒い石や産地不詳の石は軒並み加茂川石となっている可能性があることを心に留めておくべきである。

加茂七石

鴨川の上流には、秘境と呼ぶに相応しい地がいくつもあり、場所ごとに特徴的な石が産する。

特に八瀬石、賎機石、鞍馬石、畚下し石、貴船石、雲ヶ畑石、紅加茂石などを加茂七石(かもしちせき、かもなないし)と称し珍重する訳であるが、神居古潭七石や春日七石と同じく、様々な石質があることを讃えた美称と捉え、何が七石かを追求することはここでは控えたい。

以下に加茂七石にもあげられる代表的なものを列記する。

八瀬石(やせいし)

高野川上流の八瀬、主に黒谷から産する石々。 加茂真黒石とも呼ばれる八瀬真黒石、巣立の肌合いの八瀬巣立真黒石、葡萄色の貫入のある加茂川紅流し石、八瀬よもぎ石などがある。

加茂真黒石

加茂川石 - 真黒石

加茂川石 - 真黒石

この石は、加茂川石として入手したものである。個人的な見解だが、加茂川石は、四万十川石など粘板岩ほど均質ではなく、また、瀬田川石より荒々しくゴツゴツした印象があり、 より石っぽいと感ずる。石っぽい石というと、石なんだから当たり前のことではあるものの、硬く緻密で尚且つ普通の石らしさも合わせ持つ石は貴重である。

加茂真黒石

加茂川石 - 真黒石

加茂川石 - 真黒石

この石も加茂真黒石として入手したものである。

肌合いが巣立ちである一方、全体的に丸みを帯びていることから、もともとは八瀬巣立真黒石だったものが高野川から加茂川まで流され、その間に擦れて加茂川真黒石となったと思われる。 台座の作りが良く、後ろ側を持ち上げるようにして前面を最適な角度にしている。

加茂川石(鞍馬石系列)

加茂川石 - 鞍馬石系

加茂川石 - 鞍馬石系

この石も加茂川石として入手したものである。色は幾分灰色がかっており、所々より白い別の鉱物が散りばめられたように点在しており、かつ比較的大き目に凸凹している。 おそらく鞍馬石系列の石が、鞍馬川から加茂川まで流されたものと思われる。

加茂川石 - 鞍馬石系

台座裏にはこのようなメモも。 石に歴史あり。

加茂川石 - 鞍馬石系

その大きさといい、形といい石だけでも存在感のあるよい石である。

八瀬巣立真黒石

八瀬巣立真黒石

八瀬巣立真黒石

名高い八瀬の巣立真黒石。溶岩のような様が千軒石のようにも見えるが、それより微細な凹凸でありまた深く、巣が入ったように見える。 見た目脆いようだが、相応の硬さもあり興味深い石である。 一部残雪のように白い石灰が残る巣立ち穴があることから、この巣立ちは石灰岩が風化で消失した跡であるようだ。

賎機石(しずはたいし)

鴨川上流、静原川の渓谷から産する石はいずれも静原石となるが、糸掛石に集約されることから賎機石といえば糸掛石を指す。 賎機糸掛石と呼ばれることもある。

鞍馬石(くらまいし)

鞍馬の渓谷や山間の採石場から産する花崗閃緑岩。全国的に分布する花崗岩よりも鉄分の含有が多く、風化による寂び色が特徴とされる。 岩盤状ではなく、山の土の中から楕円状に産する。川で角がとれ丸みを帯びたものは希少性が高く貴重。 鞍馬といってもその範囲は広大であり、場所によって石質に差がある。本鞍馬、黒鞍馬、金鞍馬、鬼鞍馬、栗鞍馬、姫鞍馬など石質や形状、そして色によって分類される。

鞍馬石

京において沓脱石や飛石として、時につくばいに加工されるなどして古くから珍重され、また水石においても非常に人気があるのが鞍馬石である。 左から本鞍馬石、金鞍馬石、鞍馬石。

本鞍馬石

本鞍馬石は、本場、鞍馬の地から産する鞍馬石であり、これは丹波鞍馬石、甲州鞍馬石と比してそう呼ばれる。 もともと鞍馬石は鉱物学的にはチタン鉄鉱系列の花崗岩に分類されるが、花崗岩自体はごくありふれた存在であり、日本中至る所で見かけることができる。

鞍馬石は、詳しくは花崗閃緑岩や石英閃緑岩といわれるが、多量の磁硫鉄鉱が含まれ、酸化によって独特の錆色を生ずる。 この性質こそが鞍馬石として珍重される理由であるが、似たような性質を示す花崗岩として、丹波鞍馬石、甲州鞍馬石が有名である。 そのため、それらと差別化するために本鞍馬石という呼び名が定着したようである。

この本鞍馬石は、写真ではあまり寂びたように見えないが、その実、綺麗な鉄錆色を呈している。 川ずれで全体的に丸まり、触り心地も申し分ない。小さいながらも変化もあり個人的に気に入っている本鞍馬石である。

金鞍馬石

金鞍馬石

こちらは金鞍馬石。

鉱物の含有量が多いのが特徴といわれるが、最たる特徴はゴツゴツとした小塊が集結したような形状である。 おそらく圧砕によるものだが、これも黒みがかった錆色が見られ、鞍馬石の中でも特に人気の高い石である。

鞍馬石 - ソゲ

こちらは鞍馬石のソゲ石。

薄く切り離すことを削ぐ(ソグ)というが、鞍馬石からソゲたものである。 鞍馬石のソゲは、石付盆栽に最適であることから、人工的に削がれたものも多いようである。

花崗岩は地下深くでマグマがゆっくり冷えて固まった深成岩であるが、節理とよばれる亀裂が所々に発生する。 節理に近い箇所は風化が進み、芯との間に玉ねぎの皮のような剥離部が生ずるが、これを玉ねぎ状風化や球状風化と呼ぶ。 この玉ねぎ状の皮の部分がソゲ石であり、水石として鑑賞されたり、石付盆栽に使われたりする。

黒鞍馬石

黒鞍馬石

これは黒鞍馬石。幾分ざらついた肌触りでよく見るとキラキラと極小の煌きがみえる。黒雲母といわれるが、よく分からない。石質は硬質で凹凸のある模様といいなかなか興味深い。

古道真黒石(ふるみちまぐろいし)

花背峠の古道沢から産する石で古道鞍馬石とも呼ばれる。黒く閃緑岩がさらに変成作用若しくは風化作用を受けたような石質。

古道真黒石

これは古道真黒石。非常に硬質で重い。肌合いは佐治川石のようであるが、それよりも微細で角度によってキラキラと輝きが瞬く。

古道真黒石

古道真黒石

独特の模様といい、何とも言い難いよい石であるが、惜しむらくはなかなか市場に出回らず見掛けることが稀なこと。

丹波鞍馬石

丹波鞍馬石

最後に鞍馬石繋がりで参考に丹波鞍馬石。

この一石をもって丹波鞍馬石とはどういったものか語ることはできないが、本鞍馬石に比べ含まれる鉱物の粒が細かく均質、砂岩のようでもある。

貴船石(きぶねいし)

貴船川から産する輝緑凝灰岩で青~紫の蓬色や灰色などバリエーションがあるが特に紫貴船石が珍重される。

紫貴船石

紫貴船石は、庭石として名高く、肌合いは風化したチャートのようで岩のような雰囲気がある。 白い石灰が山の裾野から湧き上がる雲海のように見える小さいながらも存在感のある一石。

紫貴船石

続いてこちらは貴船糸掛石。

貴船糸掛石

貴船糸掛石

貴船石といっても、名高いものだけで紫貴船石、貴船よもぎ石、貴船五色石、貴船糸掛石などバリエーションがある。 糸掛石は、仁淀川など他の場所からも産するが、水石においては特に貴船糸掛石が名高く、人気があるようである。

これらの石は、水石の中では軟質の部類に入ると思われるが、その複雑な肌合いは興味深い。

畚下石(ふごおろしいし)

鞍馬と貴船の間から産する山石。チャートに石灰岩が帯状に入るものを灰龍眼と呼び珍重する。

雲ヶ畑石(くもがはたいし)

雲ケ畑から産するチャート。畑石とも呼ばれる。紅加茂石のような鮮やかな赤色でない小豆色や茶色に近いチャートが該当する。

紅加茂石(べにがもいし)

鮮やかな赤色のチャート。白い石英が混じる。

なお、鴨川は地域の諸規制や京に近く近隣住民の感情も考慮する必要があり、一見での探石は困難である。 地元の愛石家のサポートを受けるのが必要だろう。 今後、水石文化が広く認知されることを期待するばかりである。



 

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