瀬田川石-I, Setagawa Ishi
瀬田川石-I
瀬田川石は、加茂川石、佐治川石と並び水石の三大銘石のひとつとされます。
とは言え、水石を代表する三大銘石が具体的にどの産地の石かといった問題について、 具体的、統計的な調査に基づく番付がある訳では当然なく、複数説あるなかでまぁだいたいこんなところだろうといった相場観でしかありません。 人によっては、じゃあ神居古潭石は?揖斐川石は?といった意見があるでしょうし、個人的にも思うところはある訳です。
それでもなお瀬田川石については、石質、石種、流通量、独特さからいって、名実ともに水石の三大銘石に入るだろうと思います。
その中でも特筆すべきはその石質ではないかと思います。とにかく緻密で硬い。
一度瀬田川石に触れる機会があれば、ぜひ爪で弾いてみて欲しいのですが(もちろん石の種類と形状にもよりますが)そのほとんどがキンキンとかん高い金属的な清音を発することでしょう。
瀬田川石は、鉱物学的には熱による変成(接触変成作用)によって生じる接触変成岩であるホルンフェルスのうち、菫青石ホルンフェルスまたは泥質ホルンフェルスが主ですが、 他の産地の石とは違い、なぜこんな形になるの?と思われる石も少なくありません。
個人的にはそれは琵琶湖という古代湖も関係した、生物由来のある種の化石も入っている気がしています。 主なホルンフェルスについては変成作用が幾度となく繰り返し受けたことで他の産地にないほどの硬さを持つのではないかと思います。 それも関係してか瀬田川石についてはツルンとしたものが多く激しいジャグレの石肌はほとんど見かけません。
流通量についてはヤフオクなどで「水石」と検索するとほぼ間違いなく瀬田川石がヒットすることからも相当に出回っていると思います。
瀬田川石を「King of 水石」と言っても過言ではないかもしれません。
瀬田川石 - 蟹真黒
瀬田川石には、蟹(かに)真黒と笹(ささ)真黒があり、菫青石ホルンフェルスの菫青石が抜けた跡の形により蟹と笹に分類されます。
しかしながら、蟹と笹の差が曖昧であるのも事実です。
蟹は菫青石の抜けた跡が「カニのハサミの形」説と「カニが歩いた跡」説のふたつがあるようです。 また、菫青石の抜けた跡に幅があってカニのハサミのように見えるものを蟹、細く笹の葉のように見えるものを笹という分類もあります。
ここではあまり厳密に分類することはせず、見た感じで蟹っぽいものを蟹、笹っぽいものを笹とおおまかに分類しています。
なかなか興味深いところですが、菫青石の抜けた跡には浅いものと深いものがあり、浅いものの場合抜けた跡の色が薄いこともあり面一か逆に浮かび上がっているように見えるものもあります。
この場合、指でなぞっても凹みはほとんど感じられません。
一方で深いものについてはクレータのように凹凸著しく、見方によっては痛々しいほどのものもあります。
私個人的な分類では、前者を笹、後者を蟹と分類することが多いです。
さて、こちらの瀬田川石。
菫青石の抜けた跡が深く、また抜けた跡の間が繋がっている個所もあり、砂浜を蟹が横歩きしたようにも見えるので蟹真黒としました。 この石の場合、それ以上に特徴的なのが燻し銀のような色合いと硬質な石肌です。
何故だか分かりませんが、少し放置しておくと表面が茶色に錆びるような色合いを呈するのですが、それでもテカテカに光を反射します。 なお、磁石は反応しません。
裏面です。
ただこの石の場合、遠山の形に収まりきらないので、右側の御神体のようなところを前面に見る方がよいかもしれません。
これはまるでしめ縄を巻いたかのようです。
普通ホルンフェルスは泥岩などがマグマの高い温度と相応の圧力で押し固められ変成したものなので、ある程度均一的になると思うのですが、 なぜか瀬田川石には「なんでこんなんなった?」と思わせるようなものが散見されます。
このしめ縄もその一つで、これが何なのかよく分かりません。
生物由来の化石っぽい気がします。
こちらの石はかなり古いもので前所有者が交換会をとおして入手されたものに台座をつけられたとのこと。 水石は、石の永続性から所有者を転々として次の世代に引き継がれていくものです。
大切にしたいと思います。
瀬田川石 - 真黒石
こちらは瀬田川石の真黒石ですが、引き続き生物由来ではと思わせる石です。
全体的にどうしたらこんな形の石ができるのか不思議に思えてならない形をしています。
底です。まったくの自然のままのウブ石です。 光の加減でキラキラしますが、全体的にマットな感じから泥質ホルンフェルスだと思います。
この不思議な形は、何か軟体生物の化石だと言われれば、なるほどなと納得してしまいそうです。
瀬田川石にはこのような不可思議な石があります。
瀬田川石 - 真黒石
こちらの石は中ほどに溜り(たまり)のある瀬田川石です。
瀬田川石はホルンフェルスを中心とした硬質な石が多いことから、ジャグレはほとんど見られません (一般にジャグレは中硬度の石に多いと言われます)。
こちらの石の場合、溜りの内部のえぐれた個所を見ると、複雑な形状をしていて、そこだけ捉えるとジャグレと言えなくもないのですが、そういった見方はされません。 むしろこの石の場合、溜り以外の全体的なツルッとした石肌に焦点が当てられると思います。
なぜ中ほどにこのような溜りが出来たのか、もしかすると変成作用を受けてホルンフェルスになる際、そこだけ違った鉱物か何かがあったのかもしれません。 硬質が故、複雑な形状に乏しい瀬田川石からするとやや珍しい方かもしれません。
この石も非常に硬く、爪で弾くとキンキンと清音を発します。よく見ると複雑な模様を呈しており、もしかすると変成作用を複数回受けたのかもしれません。
瀬田川石 - 梨地
こちらの石は瀬田川石の梨地としましたが、典型的な梨地ではなく、表面は言うなれば梨地、裏面は巣立ちのような真黒石です。
表面はよく川擦れして滑らかな石肌をしています。また黒々とした地肌が艶々で硬質な感じが伝わってくるようです。
そして裏面は川擦れがそれほどなく、巣立ちとまでは言いませんが細かな穴が見られます。 川底にあって表面が多く川の流れにさらされたのでしょうか。
これは裏面も拡大写真ですが、小さな深い穴があり、それとは別で白い浅めの斑点があります。 おそらく白い浅い斑点が菫青石が抜けた跡、深い穴は底に斑点がなく穴だけなので、菫青石ではなく何か別の鉱物がホルンフェルスになる際に充填されていて、その後抜け落ちたか消失したのではないかと思います。
瀬田川石 - 米点
こちらは瀬田川石の米点、形は舟形石になります。
触った感じはいく分粉っぽいですが、それでも硬質で爪で弾くとキンキンと清音を発し緻密で硬い石です。
この米点ですが、米の部分が凸となっているのですが、その部分が別の鉱物というよりはより硬いホルンフェルスでそれ以外のところが粉っぽく変成作用があまり進まなかったように見えます。 つまり変成作用が進んで硬くなった部分が凸部として残ったイメージです。