佐治川石-I, Sajigawa Ishi
佐治川石-I
佐治川石とは、佐治川から産する"水石の"総称である。 ここで気を付けなければらないのは、佐治川の石は皆、佐治川石といえるが、水石でいう佐治川石はある範囲の石をそう呼ぶのであって、佐治川の石全部に水石的価値があるという訳ではない点である。
以降、水石の佐治川石について述べる。
佐治川石は加茂川石、瀬田川石と並び三大水石のひとつとされることから、銘石に占める割合も相応に多い。
一方で、本当に水石でいうところの佐治川石なのか怪しげな石も多いため注意が必要である。
佐治川石の最大の特徴は何と言ってもその石肌(肌合い)である。
他の産地の石同様、佐治川石にも様々なバリエーションがあるため一概には言い切れないが、まず佐治川石といえば、ざらりとした石肌を思い浮かべる。
「千本立」とも表現されるその石肌は、触れれば刺さるような雰囲気があり、気安く触れようとする者を拒むような気高ささえ感じられる。
そのため佐治川石は石肌を撫でるよりも、見て愉しむ石といえる。 撫でることを望むのであれば、佐治川石より瀬田川石の方に軍配があがるだろう。
佐治川石には様々なバリエーションがあり、その数、十を超えるようであるが、代表的なものを佐治川十石や佐治川七石と称し分類している。
ただし、神居古潭七石や春日七石と同様、厳格に十種類が定められている訳でもない。
佐治川の真黒石である。 この石のように針鋸状の石肌を基盤に川擦れにより比較的滑らかな凸部を持つものがあるが、こういった真黒の場合、均一な石質というよりもともと千本立てと称されるようにある種の鉱物が密集して構成される都合上、瀬田川石に比べ石肌の荒いものが多い。 逆にこれがために凹凸に富んだ形状となり、起伏の激しい山容や荒々しさを愉しめる訳である。
この石は佐治川石として入手したものだが、本当に佐治川石か少し怪しいところはある。 一方、佐治川の真黒石で、前の石のように針鋸状が見られないものもあり、 また、佐治川石の真黒石について、硬度が高く重量があり、鉄分を含み錆色が見られ、初期に庭石として珍重された金石と呼ばれるものがあるという。 それは瀬田川石にも似るという。
その観点でこの石を見ると、なるほど硬質で重量があり、錆色も見られる。川擦れの箇所は黒光りして鉄のようだ。 さらに詳しく見ていくと、下の写真の右側に繊維状の組成が見られ、また裏側にあっては複雑な変成の跡に、所々キラキラと鉱物が混じっている様相が佐治川石らしさを感じさせる。 これであれば瀬田川石に似てるといえなくもない。
佐治川石の紹介を続ける。
この佐治川石は形が特に気に入っている。 石質は一番最初の佐治川石の真黒と似て、凹部は細い鉱物が密集したような雰囲気で艶はなくマット調。所々キラキラと光を強く反射する。 凸部は鉱物感が薄れ、二つ目の真黒のように普通の石のような雰囲気がある。ただし凸部もよく見ると角度によってキラキラ光る箇所がある。 色は若干灰色がかった黒で、佐治川石によく見られる色である。
少し上方から。龍が横たわっているかのようにも見える。
戦闘機のようにも見える。が、親バカかもしれない。
続いて、佐治川石の灰地石。
灰地石は、縮緬(チリメン)肌で薄墨色や青地色という。 この石は、佐治川石独特の縮めん肌石ということで入手したものであり、背面の梅花模様も魅力という説明が添えられていた。
縮緬石というと、藤枝縮緬石が有名であり、確かに藤枝縮緬石の肌はチリメンのちぢみ織りのシボのようである。 ただし硬さはない。
佐治川石は古生代中期から中生代中期の噴出物が高い圧力を受けて変化した変成岩の一種で、緑色千枚岩や緑色岩とされる。 つまり佐治川石は相応に硬質であり、縮緬肌といっても藤枝縮緬石のような柔らかいが故の繊細な縮緬には普通ならない。
個人的見解であるが、佐治川の縮緬は針鋸状の佐治川石と形態が異なるだけではないかと思う。 つまり、針鋸状の佐治川石のうち、組成がより細かく密集したものが、川擦れによってある程度研磨され縮緬肌になるのではないか。
佐治川石は緑色千枚岩か緑色岩と分類されるようであるから、鉱物学的には針鋸状も縮緬状も大差ないのかもしれない。
佐治川石の灰地石についてもう少し。 以下は産地不明の石であるが興味深い。
佐治川の灰地石について、縮緬肌のことを「鶯色の梨肌」と説明するものがある。
この石は、鶯色。梨肌の意味が瀬田川石の梨地だとすると当てはまらないが、石肌が縮緬のようである。
さらに、石肌の感じは針鋸状の佐治川石と異なり、細粒が凝結したような組成となっているが、岩石というより鉱物的な様相や所々キラキラと何らかの結晶が見られるあたり佐治川石の雰囲気によく似ている。
私はこの石を佐治川石の灰地石ではないかと考えている。
個人的な見解ではあるが、佐治川の灰地石にもバリエーションがあるのではないかと思う。 なお、灰地石の色は灰黒、青、灰色があるという。ここで青とは緑色を青色と表現する日本独特の文化的背景から実際は緑色、さらには鶯色だと考えられる。