瀬田川虎石-I, Setagawa Tora Ishi
瀬田川虎石
虎石と呼ばれる石がある。
水石においては、黄土色と黒色の層が交互になった石のことを指し、瀬田川から産するものが名実ともに最高とされる。
実際、瀬田川の虎石は非常に名高く、個人的には"King of Suiseki"と呼んでも差し支えないとさえ思う。 その一番の理由は何と言っても平成28年8月8日の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」の折、部屋の左奥に飾られていたのが虎石だったことだ。 そのような重大な場面に水石が飾られること自体、計り知れない意義があるのであるが、その石が瀬田川の虎石であったことは更に深い意味を持つ。 さらにその映像は世界へ発信されているのである。興味ある方は宮内庁のホームページをご覧になるとよいだろう。
この出来事が水石における虎石の地位を格段にしたのは事実であるが、 当然のことながらそれより以前から虎石は人気があり、その理由は人を惹きつける魅力が多くあるためである。
一つ目の魅力は質の良さであろう。
瀬田川産の虎石が最高と云うことは即ち虎石は他でも見つかるということである。 姉川、粕川、揖斐川、庄内川、犀川や阿賀野川の虎石で飾れるものが時折見つかる。 さらに虎石はこれら河川以外でも全国的に見つかるのであろうが、それらのほとんどが二流品である。
乾いてざらつき脆い石肌に色もさえない。黄土色と黒色の比率が不格好であったりもする。 それに比べ瀬田川の虎石は一味違う。
石肌が心持ちしっとりとしている。また黒色の層も複雑な模様を呈していて興味深い。 一説によると瀬田川の虎石は黒色の層が単調な一色でなく黄土色の層との境により黒く細い層があるのが特徴と云われる。
この説の真偽のほどはさておき、やはり瀬田川の虎石は一流でありその質は特筆するに値するのである。
二つ目の魅力はバリエーションの多さであろう。
虎石といっても、瀬田川から産する虎石には、白虎、黒虎、金虎、飴(アメ)虎、乱れ虎、玉虎、豹虎、かね虎などがありバリエーションが豊富である。 細分化するとさらにバリエーションは多くなるし、中には片麻岩のようにキラキラ光る鉱物を含む鉱物学的には別に分類されるような石さえあったりする。 さらにそれらの中間的な性質を持つ虎石も存在する訳でバリエーションは非常に多い。 つまりある虎石は、白虎かつ乱れ虎という場合もある訳で収集癖がくすぐられるのである。
虎石の三つ目の魅力は時代がつきやすいこと。
水石は持ち込みの古さが重要とされるが、虎石は比較的時代がつきやすい。 黄土色の層がいくぶん泥岩質のようで水分などが染みこみやすいのがその理由である。 虎石のなかで、黄土色が飴色になったものを「アメ虎」と呼び珍重されるが、そのほとんどが人為的に何かを染みこませたものが多い。 人為的にそのような効果を狙っていなくとも、持ち込んでいくと次第に時代感がそなわってくるのをみるのは愉しいものである。
四つ目の魅力は謎の多い石であること。虎石は黄土色の層はチャート、黒い層は粘板岩とよく云われるが、そうではないと信ずる。
黄土色の層は泥に近い黄土が起源と思われるが黒い層も含めて全体としてホルンフェルスと思われる。 梨地を含む黒い層のホルンフェルス方が硬そうであるものの、何故か黒い層の方が浸食されやすくそのためその箇所が窪み、黄土色の層の方が出っ張る形で見つかる。 虎石については、成因含め詳しいことがよく分かっていないのが実情のようである。 その辺りも魅力のひとつであるといえる。
五つ目の魅力は比較的柔らかい一方でとても重いこと。
これは四つ目の謎に関係しているのであるが、黄土色の層はたいてい柔らかい。サンドペーパーで削れるくらいである。 しかし何故か浸食には黄土色の層の方が強いようで、梨地ホルンフェルスの黒い層の方が先に摩耗した状態でみつかる。 柔らかくて喜ぶのは加工してもその跡が分かりにくい業者たちであろう。しかしながら柔らかいが浸食には強いという一見相反するかのような性質は非常に興味深い。 そして虎石は非常に重い。全体が黒いホルンフェルスである真黒石よりも重いようである。 何故だかは分からない。 しかし虎石を持ち上げた時に感ずるずっしり感は柔らかな石肌と相まって心地よいのである。 硬さと柔らかさを兼ね備えたが故の魅力のようだ。
以上つらつらと後先考えず虎石について個人的な考えを述べたが、あくまで主観的な見解である。 妄信である可能性も大いにあるため、是非ご自身で真偽のほどを確かめていただきたい。
瀬田川の虎石 - 土坡
これは瀬田川の特徴がよくみられる虎石である。 見る角度によってひどく怠慢にみえるのが玉に瑕であるが、雄大で広々した雰囲気があり気に入っている。
瀬田川の虎石 - 立山
これも瀬田川の特徴が多くみられる虎石である。
瀬田川の虎石 - 立山
虎石は黄土色と黒色が層になっていることから、層を水平に置き土坡とみることが多いが、あえて立てて層を魅せようとするのも興味深い。
瀬田川の虎石 - 高土坡
これは高土坡としたが、むしろ直前の虎石と同じく、積層の具合を愉しむ石であろう。 積層が見事で美しい。
瀬田川の虎石 - 土坡
黄土色と黒の層が入り乱れ(乱れ虎)、また玉のようになっている箇所(玉虎)もある。