幸太郎石-I, Kotaro Ishi
幸太郎石-I
個人的な感想ではあるが、幸太郎石は水石初心者にとって捉えづらい印象がある。
幸太郎石は、たいてい庭石など大きなもので屋外に置かれ風化したものが多いこともあり、その特徴が伝わりにくいのが一因として考えられる。
大きなサイズが主流となることから、手ごろなサイズの幸太郎石についてはオークションなどであまり出回らず、入手が困難な部類の石といえる。
続いて、その石質も捉えづらい。
幸太郎石は、基本、藍青色を呈する淘汰の悪い変形した礫岩といわれる。 また、風化作用による浸食のため、凹凸の著しい独特の景観が見られるのも特徴である。
風化による浸食によって作り出される複雑な石の様相は、幸太郎石の水石における優れた点の一つにあげられるが、風化が過ぎるとボソボソとなり石質が捉えづらい。
それでも風化していない箇所は、鮮やかな藍青色を呈するものが多く、まるで碧玉のような艶を有するものもある。 そういった箇所は肌触りも滑らかであって、水をかけると更に鮮やかさを増す。これも幸太郎石の優れた特徴である。
幸太郎石は、藍青色が主流だが赤いものもあり、また黒もある。 赤幸太郎石の赤い箇所は、藍青色よりさらに碧玉に似るが、赤い箇所が層状に、皮のようになっているものが多いと感じる。
幸太郎石の名は前述のとおり、アイヌの猟師、川奈野幸太郎氏の名に由来し、たいていの水石は産する川や場所の名を冠すため異例といえる。 しかし、幸太郎石の見つかる沢が幸太郎沢と呼ばれることを考えると、幸太郎石も産地の名を冠しているともいえる。
沙流川石 - 青幸太郎石
この石は、沙流川石として入手したものであるが、その石質から川擦れした幸太郎石そのものであることから、幸太郎石として紹介する。
藍青色の地に白くまぶされた石灰のような石質。 川擦れにより全体的に丸みを帯びているあたり、それほど硬質ではない印象を受ける。
底部はより一層、点在する白い箇所の状態が分かりやすい。
沙流川石 - 赤幸太郎石
この石は、赤の地に薄い青い層のある幸太郎石である。 幸太郎石の赤は比較的鮮やかな色合いをしており、また色が混じりあう様子など碧玉(ジャスパー)に似た様相を示すものが少なくない。
下から見ると赤い地に波打つように青い層が貫入しているのがわかる。
見た目は碧玉に似るが、実際には碧玉ほど硬質ではなく、やや軟質のように感じるが、それがかえって水石としての鑑賞に向いている。 碧玉は、宝石類を除き巷にある石の中では最も硬質な部類の石であるが、硬すぎるせいで形の変化に乏しく、さらには色調が派手すぎるため、水石には向かない。
その点、幸太郎石は碧玉に比べ形の変化がみられ、色調も落ち着いているため水石によい。 最も水石より庭石としての需要の方があるようだが。
沙流川石 - 青幸太郎石
この石は、幸太郎石らしい幸太郎石といえる。 川擦れの箇所は碧玉のように滑らかな石肌である一方、風化作用による浸食のために白く凹凸の著しい箇所もある。
水に濡らすと鮮やかになる色調も水石として一興がある。 形は典型的な水石のカテゴリーには入らないが、私は好きである。 どの角度から見れば見られるか、考えるのが好きなのである。
最後に興味深い幸太郎石として、下部は全体的に風化作用による浸食で白くなっている一方、上部の一部のみ質の良い石肌を見せる一石を掲載する。 どのような経緯でこのような様相になったのか考えるのも面白い。