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水石ブーム, Suiseki boom

昭和の石ブーム

水石は室町時代の昔から連綿と続く日本の文化のひとつと見なされますが、直近のブームは昭和30年~40年頃でした。 もう少し詳しくいえば、石ブームとしては、昭和31年頃から40年にかけてのおよそ10年間が該当し、 このうちピークは昭和36年~39年頃だったようです。

この頃日本は、高度経済成長期の真っただ中にあり、 三種の神器(家電製品)が急速に一般家庭に普及、燃料は石炭から石油に変わり、 太平洋沿岸にはコンビナートが立ち並ぶなど生活様式だけでなく人を取り巻く環境も含めおおきな変革があった時代です。

社会全体が急速に物質主義に傾く中、禅的、文人好みであるとして精神性が感じられる石に人気が集まるのも 自然といえば自然の流れだったのかもしれません。

その頃は水石関係の書籍が多数刊行され、水石展も日本全国で月に幾度となく開催されたそうです。そして、 昭和36年には日本水石協会が設立されていますが、その年、第1回日本水石名品展が日本橋三越本店の催事場にて開催されました。

当時、石ブームがどれほどのものだったのか、この一事だけで十分によく分かります。 第1回日本水石名品展は当然のこと、水石展はどれも大盛況、ブームがブームに火をつけていく様相でした。

一方で社会的なブームを引き起こすには石の精神的な側面だけでは足りないのも事実だったようです。

実はもう少しこの時代を詳しく見ると石ブームのピークであった昭和36年は岩戸景気の終わりにあたり、 その後不景気(転型期不況、転換型不況、昭和37年不況)を迎えます。

労働者の収入が急激に増加し中流層の増大と消費ブームから大量生産・大量消費が当たり前になる一方、 成長産業とそれ以外との格差も広がった頃です。

不安定な世の中において、一攫千金をもくろむ人たちの影響なしには 愛石人口200万人といわれるような一大ブームは起きなかったと思われます。

水石展で見る石はどれも川原でよく見る石ころによく似ています。 それが何千円、何万円もの値をつけるとしたら、よし俺も探してみようと思うのは人の性です。 そして有名な産地では探石銀座と呼ばれるように人が川に満ち溢れたといいます。

もっとも物質主義の頃ですから、ただ石を拾ってくるだけでは物足りず、グラインダーで形を整え、 研磨機で磨き自分好みに石を作り上げることも大々的にされたようです。

ダイヤモンドが原石のままよりその後の加工によって一般の人が美しいと感ずるように、 ただの石をより美しく作り上げるというのは一般の人にとってごく自然のことに感じられたのかもしれません。

こうして水石だけでなく美石や珍石、庭石も含めた一大石ブームが形成されていったのです。

昭和の写真

現代の水石(同じブームは来ない)

現代で水石というと、ごく限られた人たちの趣味とみなされます。

趣味とみなされればまだいい方で、水石という言葉自体、一般に認知されているとは思えません。

新たに発刊される水石の書籍はないに等しく、水石展がそこかしこで開催されることもありません。 日本全国にまだある愛石会や同好会は、高齢化の波著しく、風前の灯火のようになっています。

一方で、コロナ禍において、糸魚川あたりでの翡翠さがしが若干注目を浴びたように、 不安定な世の中を反映してか個人的な探石はちらほら行われているようです。 オークションをはじめ個人売買が当たり前になった時代背景も影響しているようです。

そういった意味では現代の水石はより個人を中心に行われていると言えるでしょう。 それはそれで時代の流れの反映であり悪いことではないのですが、当然のことながらデメリットもあります。 それは主にインターネット上の記事や写真からしか石を学ぶことができず、石を見極める目を養うのに時間が掛かり過ぎることです。

石のありのままの姿を写真に写すのは至難の業です。

それは立体的な石を、近い距離での撮影で二次元上に表現することに無理があるためですが、 ほんの少しの角度、光の加減でまったく違った石のように見えることさえあります。

私も幾度となく写真と現物の差に唖然としたことがあります。

個人で収集できる石の数もおのずと限度があるため、一足飛びに石の知識を身に着けるのは困難のように思えます。 石は手にとって初めてその本当の価値が分かるものとすれば、多くの失敗を経て初めて理解できることが多いためです。

そういった中、転売業者には注意が必要です。 上記のように石は手に取ってはじめて真価が分かることが多いため、イメージと違った石を転売することは(家が石で溢れかえる前に)やむを得ないものの、 明らかな転売目的の業者の存在は健全な水石文化の発展を妨げる以外の何者でもありません。

オークションにせよ何にせよ個人売買では、基本双方が納得して購入することから、一見何の問題もないように思えますが、 産地偽装、イメージ戦略なのか石を必要以上に黒くし、反物を背景に石を撮影するなど行き過ぎた行為も見られます。

実際にメルカリで3,600円の石手川石が売り切れたなと思っていたら、その翌週にはヤフオクで佐知川瘤石として40,000円で売られていたことがありました。 また、ヤフオクで1,000円程度で購入し、その翌週には同じヤフオクで数万円で転売みたいなことも普通にされています。

その際、石の色が灰色から黒色に変わっているので気が付かない方もいらっしゃるのではないかと思います。 石に油分やお茶の出がらしを塗布して一時的に石を黒くすることもされるので注意が必要です。

さらには石に産地以外の勝手な名前を付けて高値で売る業者にも注意が必要です。 新種の石、免疫力増強や健康に効く石なんて文言がでたらまずあやしいと思うことです。

話が脱線してしまいましたが、より個人的な水石が現代の傾向ではあるものの、SNS等を通じて新しい水石コミュニティができる可能性も否定できません。

なかなか昭和の水石ブームを体験した方がSNSを活用するのは難しいかもしれませんが、 現代の新たな視点で水石を捉えなおしてみるのも面白いかもしれません。

これから先、現代の水石が健全に発展することを心から願っています。

しかしながら、グローバル化著しく、世界中の情報がすぐさま手に入る世の中において、人の活度や興味が多方面に拡散している状況からみて 昭和の頃のようなブームが再び訪れることはないでしょう。

それでも同じ興味を持つ人々が世界中から場所の制限を越えて集まることのできる現代において、水石の将来性には期待が持てます。

デジタル社会



 

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